奉納 第二十回記念「八ヶ岳薪能」

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 奉納 第二十回記念「八ヶ岳薪能」

投稿日:2010年06月25日 16:29

能「翁」おきな

 翁の成立は能よりずっと古い。「能にして能にあらず」とも、「翁こそが
能である」とされる。

 鏡の間にはご神体として翁面が飾られ、一同ご神酒をいただいて出る。地
謡と囃子方も、侍烏帽子に素襖の第一礼装に身を飾る。面箱を捧げた千歳を
先頭に、一同が橋ガカリを渡る。

 笛と小鼓三人の連打の潔さ。「どうどうたらりたらりら」という呪文めい
た謡い出し。千歳が颯爽と舞う。この間に翁太夫は白式尉の面をかけ、立っ
て舞う。「天下泰平。国土安穏の。今日のご祈祷なり」。ひたすらな平和へ
の祈りである。「翁ノ舞」を荘重に舞いおえ、「萬歳楽」の地謡が終わると、
また元の翁太夫に戻り、最初と同じように正面に深々と礼拝して退場する。

 今までほとんど沈黙していた大鼓が力強く鳴り始める。「喜びありや。喜
びありや。このところより外へはやらじとぞ思ふ」。走り出た三番三は、舞
台を踏みとどろかし、大地の稔りの精霊を呼び覚ます「揉ノ段」を舞う。続
いて黒式尉の面をかけた、千歳(面箱)との問答を交わしたあと、鈴を渡さ
れ「鈴ノ段」を舞う。飄逸味にあふれる農耕の祈りである。

 聖徳太子に仕えた帰化人の長・秦河勝を遠祖とし、八十世宗家を継ぐ金春
安明。長く奈良に住み、興福寺薪能の核をなす金春家の古雅な芸風は、とく
にこのような祈りの能にふさわしい。なお、今回八ヶ岳薪能二十周年を祝っ
て特別に用いられる白式尉は、聖徳太子作という伝説を持つ名物面である。

 三番三は、能の生まれた当初から狂言方の大事な役。神に捧げる心と、技
量の抜群において、山本東次郎の三番三こそ、当代随一のめでたさである。

狂言「福の神」ふくのかみ

 年の瀬。参詣人が富貴を祈願し、「福は内、鬼は外」と豆を撒いていると、
明るい笑い声と共に福の神が現れ、御酒を所望する。いかにも庶民的な狂言
の神様である。日本中の神様たち、特に酒奉行の神である、松尾の大明神に
捧げてからこれを飲み、ますます機嫌うるわしく、二人に楽しくなる元手を
やろう、しかし、それは決して金銀米銭のことではない、堂々の心の持ち方
にあると諭すのであった。

 その笑いのおおらかさ、楽しさに観客もそのまま同化してしまう。剛直な
までに古格を守る山本東次郎家の狂言。狂言の笑いの豊かさとめでたさ。山
本則俊父子の緊密な舞台である。

半能「石橋 群勢」しゃっきょう

 彼岸は牡丹咲き乱れる文殊菩薩の浄土。そこにかかる石の橋。幅は一尺に
も満たず、虚空に虹を描く。訪れた寂照法師(ワキ)はこれを渡ろうとする。

 今回の上演では、あなたの法力ではとても難しいと押しとどめ、石橋の神
秘を語る仙人(童子または老翁の姿)の前半が省略され、ワキの名ノリの後、
すぐに獅子の出となる。気魄そのものの「乱序」の囃子。深い静寂の「露の
拍子」。踊り出た獅子の乱舞。「群勢」は先代宗家・金春信高創案による演
出。白獅子の重厚と赤獅子の俊敏が絢爛の贅を尽くす。

 金春流の重鎮・高橋汎。その嗣子と、本田光洋の後継者兄弟が、神域の夜
を彩る、まさに躍動の美と技術の極である。「萬歳千秋と舞ひて納まりて。
獅子の座にこそ。直りけれ」。能の獅子は、勢いの象徴であり、エネルギー
の奔騰である。内に籠めて強い能の気魄が、外にほとばしり出た姿である。

                        能楽評論家 増田正造

■奉 納 第20回記念「八ヶ岳薪能」
 神 事 清祓の儀 宮司 坂田 安儀
 解 説 能楽評論家   増田 正造
 能   翁       金春 安明
            山本東次郎
 神 事 篝火点火の儀  神   職
 狂 言 福の神     山本 則俊
 半 能 石橋 群勢   高橋  汎

 日 時:平成22年8月3日(火曜日) 開場:16:00 
                  開演:17:00?19:50頃終演予定

 協賛金:一万円(全席指定)

 会 場:身曾岐神社 能楽殿
     山梨県北杜市小淵沢町上笹尾3401 0551-36-3000
     JR中央線→小淵沢駅下車(タクシー5分)
     中央自動車道→小淵沢I.C.より車で5分
     http://www.misogi.jp/takiginoh.html

 申込先:八ヶ岳薪能実行委員会 03-5445-5858



https://www.lifestyle.co.jp/2010/06/post_424.html
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