奉納 第二十三回「八ヶ岳薪能」

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 奉納 第二十三回「八ヶ岳薪能」

投稿日:2013年07月25日 11:30

■能 井筒 いづつ

 今年は能の大成者世阿弥の生誕六百五十年に当たる。父観阿弥と共に日本
の文化に演劇を加えた偉人である。それを記念して今年の八ヶ岳薪能には、
世阿弥最高傑作の「井筒」を艶麗無比の金剛永謹宗家にお願いした。先年梅
若六郎(玄祥)師の例もあるが、このような静かな中に深い味わいを秘めた
能が野外能に選ばれるのは、観客の方々の高い感性を信じてのことである。

 『伊勢物語』の「筒井筒 井筒にかけし まろがたけ 生ひにけらしな 
妹見ざる間に」という在原兼平のプロポーズの歌。「比べこし 振り分け髪
も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき」という井筒の女の返し。井戸
のほとりの幼な恋は美しい夫婦と結ばれるが、夫の新しい愛人関係の危機も
妻の純情さによって回避される。

 能はあの世から愛のすべてを回想する「夢幻能」と呼ばれる手法を完成す
ることによって、何百年経ってもあせることのない慕情の美しさを詩劇とし
て舞台に結晶させた。旅の僧の夢の中の幻想の美しさ。まさに能だけが描き
うる世界である。

■狂言 蝸牛 かぎゅう

 長寿めでたい祖父に、さらに薬になるカタツムリを献じようと、主人はそ
れを太郎冠者に命ずる。カタツムリを知らぬ太郎冠者は、藪の中で寝ている
山伏をそう思い込んでしまう。面白がった山伏は、囃子物にのせて連れて行
けという。「雨も風も吹かぬに。出ざ(角を出さないならば)カマ(殻)打
ち割ろう。でんでんむしむし。でんでんむしむし」。観客もいつの間にかそ
のノリの楽しさに乗せられてしまう。

 外国公演でも人気の高い演目である。なお今日の「ノリ」という言葉の元
祖は能と狂言である。古格の骨法を守る善竹十郎父子のチームワークに期待
される。

■能 土蜘蛛 つちぐも

 平安朝の暗い夜。武勇の誉れ高い源ョ光も、なにとも原因のわからぬ病に
伏している。侍女の胡蝶が薬を届けて、病は苦しいが必ず療治で治るからと
励ます。

 やがて橋ガカリに怪しい僧の姿が浮かぶ。するすると近より、いきなり蜘
蛛の巣を投げかける。病は蜘蛛の妖怪の呪いであった。重態とはいえさすが
にョ光、枕元にあった源氏重代の剣を抜きはなって応戦し、手傷を負ったま
ま妖怪の姿は消える。駆けつけた独り武者にョ光は事件を語り、独り武者は、
血の跡をたどって土蜘蛛退治にと前段が終わる。

 後の場面は大和の葛城山。武装した武者達の襲撃。土蜘蛛の精魂は、千筋
の糸を繰りかけ応戦するが、ついに首打ち落とされて終わる。大和朝廷の全
国制覇で滅ぼされた先住穴居民族、土蜘蛛族のクーデターとも解釈されるが、
華麗な舞台展開にまず目が奪われる。

 白い何千本もの細い虹のようにひろがる蜘蛛の糸は、まさに放物線の美学。
これは明治の頃の金剛流の発明である。昔は線香を芯にして作り、ヒモカワ
のような太い糸がフワフワと伸びたものという。金剛流を支える廣田幸稔師
をシテに、金剛宗家嗣子の金剛龍謹師がョ光をつきあう。ワキは気鋭の宝生
欣哉。囃子方も俊英揃い。すべて八ヶ岳薪能の贅である。

                       能楽評論家 増田正造氏

◆奉納  第23回「八ヶ岳薪能」

 神事  清祓の儀 宮司 坂田安儀
 解説  能楽評論家   増田正造
 能   井筒      金剛永謹
 狂言  蝸牛      善竹十郎
 神事  篝火点火の儀  神  職
 能   土蜘蛛     廣田幸稔 金剛龍謹

 日 時:平成25年8月3日(土曜日)開場15:30
     開演16:30-19:40頃終演予定
 会 場:身曾岐神社 能楽殿
     山梨県北杜市小淵沢町上笹尾3401
     0551-36-3000
     JR中央線→小淵沢駅下車(タクシー5分)
     中央自動車道→小淵沢I.C.より車で5分
 協賛金:一万円(全席指定)
 申込先:八ヶ岳薪能実行委員会 03-3568-3229
     http://www.misogi.jp/takiginoh.html



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